2050年のムーンショット目標達成に至るまでのシナリオ
現在〜2030年まで
2030
現在から2030年までは、電気信号処理系を持つ誤り耐性型大規模汎用光量子コンピューター実現に向けた研究開発を行います。この実現のためには、本プログラムマネージャーらが世界で初めて成功し現在では世界標準となった、連続量量子テレポーテーションを応用して開発した、時間領域多重汎用光量子コンピューティングの手法を用います。誤り耐性実現のための論理的量子ビットには、Gottesman、Kitaev、Preskillにより提案された、いわゆるGKP量子ビットを用います。そして、汎用量子計算に必要な全ての量子ゲート(量子演算)を誤り耐性型を実現します。
目標を実現するために、時間領域多重を行うのに十分な帯域をもち、誤り耐性閾値を超えるのに十分なレベルのスクイーズド光、安定して光量子計算を行うための光量子コンピューターチップ、および論理的量子ビット等を生成する任意量子状態発生器のための超伝導光子数識別器を研究開発を行います。
本プログラムマネージャーらが開発した時間領域多重汎用光量子コンピューティングの手法では、量子計算を行う量子もつれとしてクラスター状態を用いますが、そのクラスター状態はスクイーズド光を用いて生成します。そして、現時点でスクイーズド光のスクイージングレベルの誤り耐性閾値が最も低くなるのは、論理的量子ビットとしてGKP量子ビットを用いた場合であると考えられています。GKP量子ビットでは1 0 dB 未満の閾値の場合も発見されていますが、この時のGKP量子ビットへの要求が厳しく、この要求の緩和が求められています。本プロジェクトではこのような低い誤り耐性閾値を持つ誤り訂正法において、GKP量子ビットへの要求の緩和、および更なる低閾値化を目指します。
量子もつれの 3Dモデル
また、光量子コンピューターのクロック周波数に対応するため、スクイーズド光の帯域を光キャリア周波数の1割に当たる10テラヘルツを目指します。現在、スクイーズド光の大半は共振器構造を持つ光パラメトリック発振器を用いて生成されていますが、この場合、スクイーズド光の帯域は共振器帯域の数百メガヘルツに制限されてしまいます。本プロジェクトでは、広帯域スクイーズド光生成を目標とし、共振器構造を持たない導波路光パラメトリック増幅器を開発します。
本プログラムマネージャーらが開発した時間領域多重汎用光量子コンピューティングの手法では、量子計算を行う量子もつれとしてクラスター状態を用いますが、そのクラスター状態はスクイーズド光を用いて生成します。そして、現時点でスクイーズド光のスクイージングレベルの誤り耐性閾値が最も低くなるのは、論理的量子ビットとしてGKP量子ビットを用いた場合であると考えられています。GKP量子ビットでは1 0 dB 未満の閾値の場合も発見されていますが、この時のGKP量子ビットへの要求が厳しく、この要求の緩和が求められています。本プロジェクトではこのような低い誤り耐性閾値を持つ誤り訂正法において、GKP量子ビットへの要求の緩和、および更なる低閾値化を目指します。
誤り耐性型の汎用量子コンピューターをつくるとは、誤り耐性型量子ゲート(量子演算)のみで汎用量子コンピューターを構成することを意味します。GKP量子ビットに限らず大半の論理的量子ビットのコードはスタビライザーコードと呼ばれ、クリフォード演算(簡単に言うとブロッホ球上での90度あるいは180度回転)を行う量子ゲート(クリフォードゲート)のみで誤り訂正が可能となります。スタビライザーコードで誤り耐性型汎用量子コンピューターをつくるためには、クリフォードゲートのみを用いて非クリフォード演算も実行し汎用化する必要があります。そのためには、特定の状態に予め非クリフォード演算を施した魔法状態と呼ばれる特別な状態を準備し、それをクリフォードゲートのみで構成された量子テレポーテーション回路を用いて、任意の入力に非クリフォード演算をテレポートし実行(量子ゲートテレポーテーション)する必要があります。この手法では、スタビライザーコードが量子情報(量子状態)の誤り訂正では汎用であることに着目し、量子ゲートエラーを量子情報(量子状態)エラーとすることで、任意の量子演算エラーに対する誤り耐性を実現しています。本プロジェクトでは、量子ゲートテレポーテーションを用いて、非クリフォード演算を実行する3次位相ゲートを誤り耐性型にし、誤り耐性型汎用量子コンピューターを実現します。
光量子コンピューターを実用化するためには、光量子コンピューターをチップ化(光集積回路化)する必要があります。そのために、これまでフリースペースで行われてきた原理検証実験を導波路回路で再現する必要があります。その中で最も重要なのは、量子テレポーテーションです。なぜなら、時間領域多重汎用光量子コンピューティングとは、時間領域多重量子テレポーテーションのことだからです。導波路回路で量子テレポーテーションを行い、そのフィデリティが誤り耐性閾値を超えるようにする。さらに、その知見に基づき、時間領域多重誤り耐性型大規模汎用光量子コンピューターチップ実現を目指します。
現在から2030年までは、光子数識別器を用いた測定誘起型非線形光学過程を行うため、電気信号処理系が必要となり、それを持つ誤り耐性型大規模汎用光量子コンピューター実現に向けた研究開発を行っていきます。
2030年から2050年まで
2050
2030年までの研究開発で得られた知見に基づき、全光学式誤り耐性型大規模汎用光量子コンピューター実現に向けた研究開発を行います。2030年までの研究開発では、光信号を電気信号に変える必要があります。そのため、光信号の広帯域性を完全には生かせず、量子コンピューターのクロック周波数は電気信号処理系のクロック周波数の数ギガヘルツを超えらません。高速量子アルゴリズムが存在する問題は速く解けるますが、一般の問題は古典コンピューターと同程度の処理速度しか期待できません。もちろん、それでも消費電力は飛躍的に少なくなると予想されるため、古典コンピューターに比べ更なるマルチコア化により高速化は達成可能です。しかし、真の意味での高速化は、全光学式とし電気信号を介さないことにより、光本来の広帯域性を生かし高速化することです。2030年から2050年までで、この全光学式実現を目指します。これが実現されれば、全てのコンピューターが光量子コンピューターに置き換えられ、クロック周波数10テラヘルツさらにマルチコア化により、現在では想像もできないようなコンピューターパワーを人類が手に入れることになるでしょう。